東京家庭裁判所 昭和33年(家)12861号 審判 1958年12月25日
住所 東京都内米軍官舎
申立人 トム・エル・ハイリー(仮名) 外一名
住所 右同所
未成年者 キャサリン・サリイ・アンダーソン(仮名)
主文
申立人等が未成年者を養子とすることを許可する。
理由
申立人等は主文と同旨の審判を求め、その理由は子供がないためというにある。
家庭裁判所調査官補新保赫子の調査報告書並びに申立人等提出の推薦状二通、申立人等の宣誓供述書、結婚証明書、未成年者の出生証明書及びアメリカ合衆国副領事の証明書以上各一通を総合すると次のとおりの事実が認められる。
申立人トム・エル・ハイリー(夫)はアメリカ合衆国ミシシッピー州に生れたアメリカ合衆国人で一九五三年八月アメリカ合衆国人である申立人ドロシー・ハイリー(妻)と結婚し一九五七年三月申立人夫がまず米国空軍軍人として来日し、同年八月申立人妻が相ついで来日し、共に肩書住所に居住している。未成年者は一九五八年九月○○日アメリカ合衆国ニューヨーク州生れのジューンエス・アンダーソンの子として横浜市で出生したが、実母はこの子を育てられない事情があつて、申立人等は生後三日目から申立人等の家庭に引取られている。
申立人夫は現在米国空軍の軍人として月収三四〇ドルを得ており、資産としては若干の預金と現金、不動産を所有し、五〇〇〇ドルの生命保険証をも所有しており、明年にはアメリカに事件本人を連れて帰国する予定であるが、申立人は職業軍人であるから収入も一定し、米国に帰国後も現在とあまり変らない生活が約京されている。
申立人等は結婚後子供のないところから養子を希望し、国際社会事業団(I・S・S)を通じて事件本人をその家庭に引取つて養育しているが、申立人等は人柄もよく、事件本人に対し深い愛情を注ぎ、清潔にととのえられた住居においてゆきとどいた世話が与えられ、その家庭は子供の養育の環境として適切である。
以上のとおりの事実が認められる。
ところで、前認定のとおり申立人夫妻並びに未成年者はいずれもアメリカ合衆国人であつて、本件はいわゆる渉外養子縁組であるから、本件養子縁組の準拠法について考えてみることとする。法例第一九条第一項によると養子縁組の要件については各当事者につき本国法による旨規定されている。従つて本件養子縁組は養親の本国法たるアメリカ合衆国ミシシシピー州法、養子たるべき未成年者については同国ニューヨーク州法によることとなる。ところが米国国際私法の原則によると、養子または養親の住所の国(または州―以下同じ)が養子決定の管轄権(裁判権)を有し、その際の準拠法は当該国法即ち法廷地法でありこの養子決定の管轄をもつ国で且法廷地法に従つてなされた縁組は他の国においても承認さるべきものとなつている。(Restatement on Conflict of Laws,§ 142(a)(b), Beal, Conflict of Laws, (1934), Vol. II pp 713.)池原季雄「養子縁組の成立に関する国際私法上の二、三の問題、家庭裁判月報六巻七号四-一五頁参照)。しかもこの養子決定の管轄権決定の基礎としての養子または養親の住所がどこにあるかこれまたアメリカ国際私法上の住所の概念によらなければならないが、この場合の養子の住所はいわゆる法定住所(domicil by operation of law)によらず単なる現住所(actual residence)でもよいとするアメリカ国際私法上の判例がある。(Woodword'
そこで本件についてみると未成年者が日本に出生し爾来日本に居住していることは前記認定のとおりであるから、前記アメリカ合衆国の国際私法によると養子の住所のある日本に養子決定の管轄権があり法廷地法として日本法が適用されることになる。
このように渉外事件につきわが法例により準拠法として本国法を適用すべき場合に当該国の国際私法上当該事案につき日本法が準拠法として指定されているときには法例第二九条の所謂反致が成立し、結局日本法を適用することになる。
そうすると結局本件養子縁組については養親養子いずれの側にも準拠法として日本民法が適用されるべく、従つて民法第七九八条に基く本件許可の申立は適法であり、しかも前認定の事実によれば本件養子縁組は未成年者の福祉にもかなうものと認められる。よつて本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。
(家事審判官 野田愛子)